星野廉の日記

うつせみのあなたに

巻物をめくりめくる

 キャラクターがローラーでペンキを塗りながら走りまわっているゲームを見て、パソコンで見る文書に似ていると思ったことがあります。いま考えると馬鹿な思いつきですが、たぶんローラーという言葉から、スクロールやロールつまり巻物を連想したのでしょう。

 語源的にはつながりがないと思われる、スクリーンまでが頭に浮かびました。roller、scroll、roll、screen というわけです。そういえば、たしかにパソコンのスクリーンつまり画面ではスクロール、スマホの画面ではスライド(slide)して「巻物」を見ていきますね。

 マウスやフラットポイントをつかうか、それとも画面に指をすべらせて、なぞるかの違いはあるものの、手や指の細かい動きに連動して画面が上下に移動します。

 パソコンやスマホで閲覧できる文書は、横書きで上下に移動するものが主流ですが、縦書きだと左右に動かすことが可能です。ローラーのもとになっているロールは文字どおり巻物であり、ページがあっても、それは巻物を区切ったものにすぎません。

 巻物を切ってページ(葉・板)にした。ページ(葉・板)をつぎ合わせて巻物にした。どちらが先にせよ、人の視界には枠があり限りがありますから、ある部分しか見えないし読めないということでしょうか。

 そういえば、カーソルやポインターの先が、人の視界にある焦点に当たるのかもしれません。枠があり焦点がある。これは人の意識の限界(限界は集中でもあります)の比喩のように見えます。

 とてつもなく長い巻物がネット上に存在しても、パソコンやスマホの画面という枠内で――人には一つの画面を見るほどの視野しかないのかもしれません――、くるくると回しながら閲覧するしかないようです。

 くるくる回るのは人というよりも、人の焦点であり意識の中心点です。

 そういえば、映画(movies)はもともとぐるぐるに巻いたフィルムという形のものを、映写機をつかってスクリーンという長方形の面に写した影絵でした。動くスライド、つまり活動写真というわけです。

 その一場面を静止した画像としたのがスチール(still)写真だったと聞いた覚えがあります。たしか映画は静止画像をコマ送りするという仕組みだった記憶があります。

 錯覚に基づいているのですね。

 映画といえば、サウンドトラック(sound track)というのがありました。うろ覚えなので調べてみると、トーキー(talkie)映画の長いフィルム(film)の脇に帯状に磁気を塗って録音したとか。

 テープレコーダー(tape recorder)のテープ(tape)がフィルムの端っこにくっついているようなものでしょうか。きっとすごく細かったのでしょうね。カセットテープのテープよりも細かったのでしょうか。

 オープンリールなんて懐かしい言葉も思いだしました。たしかに、あれはオープンというかむき出しの磁気テープでした。それが小型ケースつまりカセットに収められたのがカセットテープということでしょうね。このカセットテープも、いつの間にか、懐かしい響きの言葉になりました。

 そういえば、録音テープも写真や映画のフィルムのように巻きますね。まさに巻物ではないですか。円盤(disc/disk)の形をしたレコード(record)も細い溝に凹凸だったかキザギザだったかがあって、それで音が出る仕組みだったらしいです。

 これも錯覚に基づいた仕組みです。錯覚を知覚と曲げて言い換えても事態は変わりません。錯覚に基づいた婉曲表現だという意味です。

 レコードという仕組みでは、音声を凹凸状にした溝が、渦巻き状に円盤(ディスク)に刻まれていて、それを針がぎこぎこしながら音に再現し、その音を耳にした人が直線状に楽曲として聞いていきます。

 つまり、円から直線へという流れです。これは、楽曲を溝という形にして巻かれた直線という円(レコード)が、直線という楽曲にもどるとも言えます。直線が円でもあるという意味です。

 まさに抽象と具象の戯れというか変容というか絡み合い。その絡み合いが具体的に起きる場が人の体なのあり、それが体感なのでしょう。

 丸く巻いたフィルムや磁気テープもレコードも映像や音声を収めた巻物だったという気がしてきました。巻けば長いものがコンパクトに収まりますもんね。

 なるほど。うまくできています。人は、巻物をめくる生き物のようです。巻物をめくりめくり文明を築きあげたと考えると、目くるめく思いがします。

 roller、scroll、roll、screen、slide、movies、still、sound track、talkie、tape recorder、tape、disc/disk、record。

 ローラー、巻物、巻く、転がす、銀幕、画面、すべる・すべらせる、映画、活動写真、静止写真、サウンドトラック、トーキー映画、テープレコーダー、磁気テープ、レコード。

 調べるのは最小限にして、言葉や単語をながめながら、そういえば、そういえば、と記憶の底から立ちあらわれてくるイメージを楽しむ。

 頭の中、いや体の中にあるにちがいない長い巻物をめくりめくって、やはり内にある銀幕に映してながめているような気分です。いろいろな物語が見えてきて飽きません。