星野廉の日記

うつせみのあなたに

指す、ふれる、ふるえる

 株については何も知りませんが、ニュースで株式市場の大きな動きが報道されるたびに頭に浮かぶのがハムスターです。昔飼っていたことがあり、そのときにピクピク体を動かすのを不思議な気持ちで眺めていたのを思い出します。

 はーちゃんという名前を付けて可愛がっていました。小動物は短命なので悲しい思い出もあるのですが、ときどきこうやって記憶の中にやってくるあの小さな動物を愛でています。

 自然と手と指が動いて、あの子を撫でていたときの感触がよみがえりはっとします。鳥肌がたつことさえあります。触覚的な記憶のリアルさは言葉にしにくいです。それを意識した瞬間に不意打ちを食らうのです。

 テレビで動物の生態を撮した番組を見るのが好きなのですが、小動物を見るとそのピクピクやビクビクやキョロキョロやタタターという仕草に魅了される自分がいます。

 やっぱり株に似ています。正確には株の値動きというのでしょうか。かつて翻訳業をしていて、仕事の幅を広げようと金融関係の勉強をしたことがあります。数字や数式に弱いので、とても苦労しました。

 そのときにも、以前に飼っていたハムスターの動きと似ているなあと感じたのを覚えています。

 株式や商品の相場では、値動きをリアルタイムで表示するわけですが、それは数値であったりグラフであったりします。新聞での表示は静的なものですが、ネットでの表示はまさにピクピク、ビクビク、キョロキョロ、タタターなのです。

 デジタル化された数字がまばたくように細かく点滅することがあります。グラフの線もよく見ると微かに点滅していたりします。生き物を見ているような錯覚におちいりますが、これは錯覚ではなくひょっとしてまさに生き物を目にしているのかもしれません。

 数値もグラフも何かを指しています。さす、指す、差す、刺す、挿す、注す、点す、捺す、鎖す。辞書で見ると、ぞくぞくするような漢字が出てきます。要するに、点のような微細な面積を何かが貫くというイメージでしょうか。

 点を貫くものが何かというと、線であるわけですが、その線も点の集まりであったり点の連なりであったりするのではないでしょうか。要するに点が動いて線になるということなのか。中学か高校でそんな話を授業中に聞いた記憶があります。あれは数学、いや科学とか物理の授業だったのか。

 こういうご託を並べていると、physics(物理学)とmetaphysics(形而上学)は似たような身振りをしていると感じます。ビッグワードを使ったビッグマウスでした。冗談です。身の程知らずな発言をお許しください。

 ピクピクというと、針が数字を指すアナログ式の量りや、ガスのメーターのような測定器を連想しますが、ああいう針は指しながら振れます。大きく振れる場合もあれば、小刻みにビクビクすることもあります。

 振れる、触れる、狂れる、震れる、ぶれる。

 やっぱり株式の値動きはピクピクでありビクビクです。つまり震えということですね。ビビっているとしか思えません。

 あの動きは誰かのおびえであったり、驚きであったり、喜びであったり、思考停止とか判断停止であったり――あの動きの前にどんな思考や判断が可能だというのでしょう、任せるしかないのではないでしょうか(何に任せるのかも分からないままに)、全面降伏です、まかせ、まけるのです――、錯乱であったりするのではないでしょうか。

 やっぱり生き物です。生きているとしか思えません。世界でみんながビクビクしている。指すを見て、ふれるのです。そしてふるえるのです。擬人化する生き物であるヒトにとって、その目に映って動くものすべてが生き物であり、森羅万象という名の自分の身体のふるえなのです。

 ビクビクという身振りだけがひとり歩きをしているかのよう。ビクビク、ピクピク、どきどき、きょろきょろ、おろおろ。