星野廉の日記

うつせみのあなたに

世界に同期する、しかめっ面

しかめっ面恐怖症

 テレビをつけた瞬間に、ぜんぜん見たこともない人の顔が映しだされることがありますね。

 顔を思いきりしかめているのですが、それが号泣しているのか爆笑しているのかとっさに判断できないことがあります。

 字幕とか音声の解説を聞いて初めて状況がつかめます。それまでは、宙づり状態に置かれます。どっちなんだろう?

 けっきょく、泣いているのか笑っているのか不明なまま、画面が変わるなんてこともざらにあります。

 その人の涙の意味もメッセージも、私には分からないままで終わりました。他のどれだけの人に分かったというのでしょう?

 歌を歌っている人が、いきなり顔をしかめる場合がありますが、私はあの瞬間が苦手です。

 怖くなるのです。こんなことを感じるのは私くらいかもしれません。

 もし、しかめっ面恐怖症というものがあるのなら、それは私のことです。

 よくテレビで見るミュージシャンで、サビのところに来ると思いきり顔をしかめる人が何人かいるのですが、ついついその映像を見てしまう自分がいます。

 まさに怖いもの見たさなのです。

 来るぞ来るぞ……。

 来たあ!

 そんな感じで見ています。

 でも、なんで見てしまうのでしょう?

 しかめっ面に慣れようなんて殊勝な気持ちからだとは思えません。やっぱり怖いもの見たさに近い心理だという気もします。

 それだけではない気もします。

 あと、最近、スポーツ選手がパフォーマンスの直前に、大きく口を開けた後に歯を食いしばるような顔芸を、一瞬だけするのをよく見掛けるのですが、あれも気になって仕方ありません。

 めちゃくちゃ顔をしかめますよ。

 どのスポーツにも見られます。お相撲さんの中にも取り組みの前に必ずやる人がいます。

 気合いなのでしょうか。ルーティーンなのでしょうか。おまじないっぽいんです。瞬間芸です。どれも似ています。

 初めて見たときには、びっくりしたし心配もしました。どこか痛むのかとか、外れかけた入れ歯を直しているのかとか、いろいろ想像してしまいました。

 しかめっ面は喜怒哀楽ぜんぶでありえます。ということは、どれでもないとも言えます。

 赤ちゃんなんてしょっちゅうしかめつっ面をしていませんか? しかも喜怒哀楽ぜんぶ。どっちとも言えないときもあるし。

 おとなでも本人が分からないままにしかめっ面をするというのも、よくある気がします。

 メッセージは見た人が決めるのかもしれません。誤解があっても、たいていそのまま進んでいくのです。

 何が進んでいくって、世界がです。

 しかめっ面はニュートラルなのです。

 

顔をしかめる表情が世界中でシンクロする

 私は朝の連続テレビ小説をほぼ毎日見ているのですが、あのドラマはよくできています。とても分かりやすいのです。

 表情や仕草や身振りを含めた演技が、型にはまっているからかもしれません。

 また連載が変わるごとに話が変わっても、どこか似ている気がするのですが、そうした定型っぽさが分かりやすさにつながっているようにも思えます。

 演技も表情もどちらかというと大げさです。

 中途難聴者の私はテレビは字幕といっしょに見ていますが、演技が大げさなせいか、字幕なしでもストーリーや状況がつかめます。

 このあいだ、過去の朝の連続テレビ小説の再放送をたまたま目にしたのですが、いまのものよりも、ずっと大げさな演技をしているのでびっくりしました。

 しかも、状況や筋がめちゃくちゃ分かりやすいのです。初めて見たのにですよ。途中から見ているのにですよ。

 分かりやすすぎて、感動すらしました。こんなに分かっていいのかしら――。

 そのときに気づいたのですが、どうやら私はテレビを見ながら、注目している人の表情を真似ているようなのです。

 しかめっ面を目にしたときに、自分も思わずしかめっ面になっているのは薄々知っていましたが、表情一般にいえる性癖だとは知りませんでした。

 いま思わず性癖という言葉を使いましたが、こういうのはやっぱり性癖ですよね?

 それ以来、その性癖が気になって仕方ありません。気がつくと、ニュースで見る政治家、お笑い芸人、アイドル、アーティスト、俳優を問わず、その表情を真似ている自分がいます。

 つい合わせてしまうのです。

 これをシンクロと言わずして何と言えばいいのでしょうか。

 ニホンザルもゴリラも台湾カニクイザルもしかめっ面をします。しているのをこの目で見たことがあります。

 犬と猫については……。よく分かりません。もっと観察を続けてみます。

 あ、してるわ。

 あくびです。ワンコだってニャンコだってハムスターだってあくびをします。サルやゴリラだと、しかめっ面もします。

 あくびはしかめっ面ですよね? 

 しかもうつります。うつるんです。

 昔、ハムスターのあくびがうつったのを思いだしました。ワンコでもありました。生き物に等しく「うつる」のではないでしょうか。

 あくびは時空を超えています。テレビのニュースで相撲を見ていて、客席の人のあくびがうつったこともあります。

 あれは中継ではなかったので、やっぱり時空を超えていると思います。私だけのことでなければ。

 世界中でしかめっ面がシンクロしていることはたしかです。

 まさか同じ意図で同じメッセージを送っているなんて考えられません。これがニュートラルです。意味やメッセージは決められないのです。どっちちかずでどっちなのかも分からない。また、意味やメッセージが不在ということも十分に考えられます。

 しかめっ面だけはないでしょう。ありとあらゆる表情、目つき、仕草、身振りがニュートラルだと考えられます。

 検証しようがないのです。受け手のほうも、印象として受けとめるのですから、検証不能です。印象をどうやって検証とか確証すればいいのでしょう。

 だいいち検証している間に世界は進みます。世界はそんなに暇でもないし、そんな余裕がないみたいなのです。世界はどんどん進んでいませんか? 世界は人知も感知も超えているもようです。

 私たちは世界に遅れつづけているようです。

 ヒト世界に置いてきぼりされ説。

 ひょっとすると、それが世界がニュートラルであることの意味なのかもしれません。

 世界どっちつかずであれよあれよ説。

 

ニュートラルなシンクロ

 なぜシンクロしているのか分からない。

 何となくシンクロしている。

 何にシンクロしているのか分からない。

 何をシンクロしているのか分からない。

 以上がシンクロの特徴ではないでしょうか。

 無自覚、無意識、無目的。三無主義です。

 正体不明、意識不明、原因不明、出所不明、行先不明。

 無自覚、無意識、無目的。

 言葉に似ていませんか? 

 コピーのコピー。複製拡散時代。あなたの使っている言葉の出所と行先が分かりますか? 特定できますか?

 無自覚、無意識、無目的に言葉を使っている。言葉の流れに運ばれている。言葉に身を任せている。

 これは言葉がニュートラルであり、シンクロであるからです。

 いま、あなたが涙を流しているとします。

 その涙の理由は、他人にも多人にも分かりません。

 本人にもよく分からないケースもありますよね。それがいちばん困ったケースですが、意外によくあるケースなようです。

 最後に大切なメッセージを送ります。というかメッセージを込めます。

 世界に同期する、笑顔!

 どうですか? シンクロしましたか?

 強面の私が笑うと、よく凄んでいると勘違いされます。

 勘違い平行棒。二線が交わるとことはないようです。